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初期公開日:2025年12月12日更新日:2025年12月12日
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子ども支援WEB講座
<筆者プロフィール>
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加賀 大資(かが だいすけ)氏 元こども家庭庁成育局成育環境課 居場所づくり専門官 認定NPO法人 全国こども食堂支援センター・むすびえ 公共政策領域 ディレクター |
さて、「こどもの居場所づくり」は、どのように進めていけばよいのでしょうか。近年、「こどもの居場所」の重要性が広く語られるようになりました。しかし、いざ実際に取り組もうとすると、「どう進めればいいのか」「何から始めればよいのか」と立ち止まる方も多いのではないでしょうか。
本稿では、具体的に居場所づくりを進める際のヒントを紹介します。
私自身も民間団体にいたころ、経済的困窮世帯の中高生の居場所づくりに携わっていました。上記の1 層目に属する活動です。「この場を“居場所”だと感じてほしい」という思いで日々関わっていましたが、現実はそう簡単ではありません。多くの子どもは来館する頻度はまばらで、表情は硬く、来てもすぐに帰ってしまう。そんな姿を前に、「本人が感じる居場所」と「第三者が行う居場所づくり」との間には、大きなギャップ(隔たり)があることを痛感しました。
例えば、ある中高生が「ギターに興味がある」と話していたのをスタッフから聞きました。ちょうど不要になったギターを譲ってくれた方がいたため、来館した際に目に留まる場所に置いてみました。ある日、「弾いてみる?」と声をかけると、少し照れながらも弾き始め、その後はギターを通して会話が広がっていきました。まさに「やってみたい」という気持ちが、関係づくりの入口になった例です。(後日談ですが、弾き語りができるようになり、卒業イベントで披露してくれる腕前になりました。)
こども食堂でも児童館でも、運営の形や目的はそれぞれ違いますが、共通して大切なのは子どもの視点=利用する人の目線で運営を考えることです。「この子はどんな気持ちでここにいるのだろう」「どんなことを楽しみにしているのだろう」と想像しながら、一人ひとりの「いたい・行きたい・やってみたい」を尊重・応援できる場をつくっていくことが、居場所づくりの第一歩になります。
一方で、こうした個々の実践の現場では、目の前の子どもに精一杯向き合うあまり、孤立しがちになることがあります。他の団体や運営者とのつながりが少なく、他の事例から学んだり、悩みを共有したりする機会が持てないという声も多く聞かれます。そのため、個々の運営者だけで居場所を持続させるのは決して簡単ではありません。ここで重要な役割を果たすのが、地域全体で居場所づくりを支える「第2層のプレイヤー」です。主な担い手は、「居場所づくりのコーディネーター(中間支援団体)」や「行政」です。
これらの担い手が提供する支援には、金銭的支援と非金銭的支援の2つがあります。なかでも、行政による支援と聞いてまず思い浮かべられやすいのが、補助金や委託事業などの金銭的支援です。民間団体にとっても資金は重要であり、行政に求める支援が金銭面に集中しがちなことは自然なことです。しかし、金銭的支援を受けるには注意も必要です。要綱や仕様書によって活動の自由度が制限されたり、申請や報告などの事務負担が増えることで、本来の居場所づくりに割ける時間が減ってしまう可能性があります。そのため、公的資金を提供・活用する際には、メリットだけでなく制約も理解したうえで、地域の実情に合った、柔軟で持続可能な支援の形を検討していくことが大切です。
一方で、見落とされがちなのが非金銭的支援です。たとえば、こども食堂の困りごとアンケート(※2)によると、「資金確保」「人材確保」に次いで、「やり方がわからない」「場所が確保できない」「相談先がない」といった声が多く寄せられています。
現在私は、多くの地方自治体の居場所づくりの支援に関わっていますが、こうした課題に対し、コーディネーター(中間支援団体)や行政が連携して解決しようとしている地域では、居場所づくりが活発に進んでいる印象です。たとえば「居場所づくりを始めたいけれど、どうすればいいのかわからない」という相談には、先行して取り組む団体を紹介し、見学や意見交換の機会を設けます。実際の現場を見てイメージをつかむことができ、相談できる相手も見つかるかもしれません。また、「場所がない」という困りごとには、コーディネーターや行政が、公民館や自治会館など地域の空き施設情報を共有し、利用調整を行うケースもあります。これらはいずれもお金を伴わない支援ですが、「地域に根ざしているからこそできる支援」です。地域とのつながりを活かし、場所や人をつなぎ、後方から居場所づくりを支える役割を担っています。(図3)
さらに重要なのは、地域で居場所づくりを担う人や、協力したいと考える人たちが集まれる「場」の設計です。行政や中間支援団体がその場を設けることで、対話や学びの機会、そして新たな協力関係が生まれるきっかけになります。このような場は「プラットフォーム」と呼ばれることが多いですが、その設計にも注意が必要です。よくある失敗例としては、情報交換を目的に開かれていても、次第にその意義が見失われ、参加者が減っていく「場の形骸化」を招くケースです。情報交換や仲良くなりましょうだけでは、うまくいきません。
大切なのは、参加者が「また参加したい」と思えるような仕掛けです。例えば、新しい居場所が立ち上がった際には、立ち上げた方にその背景や理念、活動内容などを紹介してもらい、地域全体で新しい居場所の誕生を祝う。さらに、「この居場所を地域としてどう支えられるか」をみんなで考える。そんな一種の“お祭り”のような雰囲気をつくりながら、居場所づくりを楽しむ地域もあります。
形態は違えども、同じ地域で居場所づくりに取り組む者同士がつながり合うことで、互いの悩みを共有し、互いの取組に刺激を受けながら進めていくことができます。居場所づくりの担い手にとっては、こうした場そのものが「居場所」になるのかもしれません。こうした取組によって、地域におけるお互いの実践を知り、支え合いながら「地域全体で子どもの居場所を支えていこう」という気運を育むことができます。そして、それぞれが創意工夫を凝らし、自分たちなりの居場所を生み出していく、この連鎖こそが、これからの地域における居場所づくりを支える力になるのだと思います。
前稿でも述べたように、居場所づくりは地域づくりそのものです。居場所を担う人だけでなく、行政や企業など、多様な関係者がともに進めていく営みは、地域のエネルギーそのものを育てます。「地域づくり」と聞くと、どこか格式高い印象があり、「自分にできることは何だろう」と立ち止まってしまうこともあるかもしれません。しかし、「あの子のための居場所づくり」と考えれば、ぐっと行動はしやすくなります。その積み重ねが、やがて地域づくりへとつながっていきます。「地域を自分たちの手でつくっている」という実感、つまり地域への手触り感を持てることは、居場所づくりに秘められた力なのだと思います
本稿が、自分の手の届く範囲からはじめる「居場所づくり」の小さな一歩につながれば嬉しいです。その一歩は、きっと誰かにとっての「居場所」になるはずです。
※1 「こどもの居場所づくりに関する調査研究報告書(概要版)」こども家庭庁(2023年)
※2 「こども食堂の現状&困りごとアンケート」認定NPO法人むすびえ(2024年)
このページの所管所属は福祉子どもみらい局 子どもみらい部次世代育成課です。