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社会福祉法人久良岐母子福祉会

2025年 11月 30日

地域とつながる発想で困りごとを抱えた女性とこどもの支援に取り組む

2025年 11月 30日
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常務理事の鈴木八朗さん

 社会福祉法人久良岐母子福祉会は、昭和26年に戦災未亡人に住居を提供するだけでなく、就労支援も同時に行うことが母子家庭の自立につながるとの想いで母子寮と保育所の活動をスタートさせました。
 高度経済成長期に入り、本部を建て替えて、乳児院も併設し、子どもと家庭を支援する活動のフィールドを広げていきました。
 「強く 正しく 明るく」を基本理念に掲げ、母子生活支援施設、2つの保育園、乳児院、こども家庭支援センターと、こどもと家庭に関する問題をワンストップで解決することができる存在をめざして多角的に事業を展開しています。


 母子生活支援施設くらきは、児童福祉法に定められた、18歳未満のこどもを1人で養育したり、離婚ができずにDV被害から避難していたお母さんとこどもなど、いろいろな困難な事情を抱えた女性を対象に日常生活・就労援助や子育て支援を行う施設で、20世帯と緊急一時保護として3世帯を受け入れることができます。
 もともとが、売春防止法に基づく保護更生の措置の流れをくむことから、女性を支援する法律は、支援者が「保護して指導する」という考えのもとになりたっていました。
 それはえてして支援が施設の中だけで完結するということになりがちで、再び困難にあわないために、社会と隔離してしまう傾向があるといいます。
 そのような状況の中で設立当初から久良岐の活動は、自立のためには社会とつながっていくことが必要だという思いが根底にあります。
 「自立支援について考えると、関係性のなかに問題って生じているものです。関係性を解決するには社会に開かれてないといけないと思うんです」と常務理事の鈴木八朗さんはいいます。

 母子生活支援施設くらきの前身であるスタート当初の母子寮は、「まず屋根があればいい」という発想から、設備も整ったものではありませんでした。
 鈴木さんが法人に入った1990年ごろもまだ、母子生活支援施設は全国の多くの施設でお風呂もなくトイレは共同、電話線を引いていないところが多く、くらきも同様でした。
 そのため、当時小学校などで電話の連絡網が作られる際、電話のない子がバカにされることがありました。これは問題だとくらきでは考え、入居する全世帯に電話線をひいたそうです。そのことを、同業者が集まる全国の大会で事例発表したところ、「お母さんが変な男とつながってしまうのではないか」という否定的な声が大勢を占めるそんな時代でした。それでも同法人では、時代のニーズをくみ取り、組織を変化させ、提供するサービスも拡充してきました。
 南区にある2つの保育園は「子育て、街育て」というモットーを掲げ、保護者や地域の方々とのつながりを重視した保育に取り組んでいます。
 戸塚区にあるこども家庭支援センターは、児童福祉法に基づくこどもとその家庭が抱えるさまざまな悩みや困りごとに専門の相談員が対応する児童福祉施設です。

コンセプトは「大きなお家」

 そして、母子寮から生まれ変わった母子生活支援施設くらきのコンセプトは「大きなお家」。
 それぞれの部屋とともに、みんなが交流できるような多機能リビングを設けて入居者がコミュニケーションをとれるようにしたり、地域の人が入ることができて交流に利用できるスペースもつくりました。閉鎖的になりがちな母子生活支援施設の母親とこどもを自然な形で地域と交流ができるようにしたことが最大の特徴です。
 もちろん、居場所が見つかると困るお母さんもいますので、そうした方はたまたま写真に写ることがないようスタッフは、注意深く対応しています。一方、母子生活支援施設に入ったことで、こどもたちの伸び伸びとした活動が制限されないようにも配慮しています。
 例えば、地域の夏祭りでは、入居者の入所している中高生だけでなく退所した児童も含め出店する企画内容を考えました。自然な形で地域と関係を築くことに努めています。

地域とつながる戦略会議

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農家との交流

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イベント出店の様子

 地域との触れ合いに力をいれているのは、母子生活支援施設だけではありません。運営する保育園では、こどもを真ん中にみんながつながり、大人も成長できる場というコンセプトを打ち出しさまざまな活動をしています。
 給食に使用する野菜は、地元の農家と直接契約を結び、毎日新鮮なものを仕入れています。その農家さんと一緒になって食育をすすめることや、近隣住民も購入できる定期的マルシェの開催なども行っています。


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地域福祉を学ぶ研修なども積極的に行う

 また令和4年には、法人全体で「久良岐福祉会地域戦略会議」を立ち上げました。それぞれの施設の担当委員や、大学の研究者、地域でかかわりがあるステークホルダーとの連携を図り、同法人で働くすべての職員が主体的に地域にかかわることを目標に地域福祉活動を推進しています。地域の絵本専門店と連携したブックマルシェや、絵本作家さんの原画展といったイベントなども行いました。地域のイベントにも積極的に参加しています。
 こうした地域に開かれた活動は、地域の人々と法人の距離を縮め、信頼関係を築くことにも寄与しています。


新たな支援施設運営の取り組み

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田代安昭さん


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「わたしのお家」生活のしおりパンフレット

 神奈川県から委託を受け、2025年1月23日から、DV等の問題を抱えて安心して住める場所を求める女性を対象とする自立支援施設「わたしのお家(おうち)」の運営をはじめました。
 「わたしのお家」は2024年に施行された「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」に基づく、旧来の売春防止法に規定されていた婦人保護施設とは異なるタイプの支援施設です。
 横浜市内にある建物を借り上げ、1階をスタッフが常駐する事務所とし、一時保護と自立支援あわせて6世帯を受け入れています。
 一時保護の期間に不安や心配を取り除き、約6か月の自立支援期間の間にこれからの生活をどのようにしていくのか、自立支援計画をスタッフや女性相談支援員とともに考え、退所後の新しい生活までをサポートします。
 施設といってもスマホの持ち込みができ、通勤や通学も可能で、自由度が保障された形で生活の立て直しが図れます。
 2024年夏に受託し、半年足らずで開設できたのは、「これまでの地域とのつながりがあったからこそ」と、その運営を任されているマネージャーの田代安昭さんは話します。


 秘匿性が求められる施設のため、物件探しは大変だったそうですが、候補となった建物のオーナーは地域の夏祭りに出店した際に、たまたま隣のブースにいた方だったそうで、心よく引き受けてくれました。
 わたしのお家の利用方法や生活上の注意点などをまとめた、入居者に渡す「生活のしおり」を作る際も、支援者の人たちの協力のおかげでおしゃれなパンフレットに仕上がりました。
 「ニーズはあっても福祉とつながれない女性を行政と一緒になってどうやってつなげていくか。柔軟に対応できる入口を整備していくか、まずは形づくりをしていくことが自分の役目だと思っています」と田代さんは前を見つめます。

支援する・されるの関係を超えて

 鈴木さんは「いろんな人たちと協働するといろんなアイデアが出てくる」と話します。その結果として保育園でマルシェを行ったり、絵本の原画展を開いたり、建物の活用も広がってきたそうです。
 夏祭りの企画のように、入所者が自分で行動するようになれば、支援する側される側の関係がぼやけてきて、「つながりのなかでWinWinの関係ができるのでは」と話します。
 「最終的には地域にとって必要であれば、たとえ園児が少なくても成り立つ保育園ができるのではないか。人と人がつながり、共生を生む。久良岐がその一つの役割を担う。そんな存在になれるのではないか」と鈴木さんは今後の展望を語ります。

プロフィール

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団体名

社会福祉法人久良岐母子福祉会

活動内容

「強く 正しく 明るく」の理念のもと、母子生活支援施設、保育所、乳児院、こども家庭支援センターを運営している。