1ページ目 神奈川県共生社会実践セミナーともいき交差点2025 津久井やまゆり園での取り組み〜東洋大学お友達プロジェクト〜 勝又 健太(かつまたけんた)北星学園大学社会福祉学部 助教/ 東洋大学大学院社会福祉学研究科博士後期課程(津久井やまゆり園お友達プロジェクト東洋大学LEAFメンバー) 2ページ目 本日の報告の構成 1背景と活動の歩み 2東洋大学お友達プロジェクトLEAFの理念 3交流を通した利用者の変化 4活動から見えた課題 5まとめと今後の展望 3ページ目 1.背景と活動の歩み (年表)2016年7月津久井やまゆり園事件の発生 2017年10月津久井やまゆり園再生基本構想 2019年6月東洋大学お友達プロジェクトLEAF発足 2019年10月交流開始(利用者・学生15人、7組のグループスタート) 2020年4月コロナ禍に伴うオンライン交流への切り替え 2021年11月新芹が谷やまゆり園舎での交流会 2022年5月津久井・芹が谷両園で対面活動の一部再開 2022年11月新津久井やまゆり園での交流会 2023年10月芹が谷園舎「せりやまフェス」にて参加 2023年11月芹が谷園舎の利用者2名を東洋大学赤羽台キャンパス学食に招待 2024年4月〜各自での交流を継続中 ※本取り組みは、2019〜2022年度に神奈川県の委託事業(「関係性構築事業」等)として開始。2023年度以降は、学生と利用者の自発的交流として継続している。 4ページ目 2.東洋大学お友達プロジェクトLEAFの理念 施設では人間関係が限定され、意思形成が特定の支援者に依存しやすい(入所施設の利用者の限定された人間関係を表すイラスト) 友だちの存在が本人の意思形成に影響を与え、安心して意思を表出できる環境になる(LEAFのメンバーと友達となった利用者を表すイラスト) 5ページ目 LEAFに込められた意味 Liberty …自由 Empowerment…エンパワメント Advocacy…代弁 Friends…友達の輪 Leafは「葉」という意味 形や大きさが違くても同じ枝にまとまっている「葉」と、このプロジェクトで仲良くしていきたいという意味を重ねた キーワードは意思決定・意思表出・意思形成 6ページ目 日常を共にすることで生まれた交流の一場面 せりやまフェス / 大学学食 LEAFのメンバーと利用者が交流している写真 7ページ目 3.交流を通した利用者の変化(1)Aさん(女性) 「お喋り女子会」を中心に交流が深まり、コロナ禍もオンラインで関係を継続。「ありがとう」などの感情表出や意思表現が徐々に増えていった 支援会議では、Aさん本人から「お友達にも出てほしい」という希望が職員に伝えられた。対等な友人関係の積み重ねが、意思表出の力を育み、 意思決定の場への参加意欲へとつながった LEAFのメンバーとAさんがビデオ通話をしている写真 8ページ目 3.交流を通した利用者の変化(2)Bさん(女性) 「嵐」が好きという共通の“好き”をきっかけに交流がスタート 学生がDVDを持参し、Bさん自身に“どちらを見るか”を選んでもらう場面が生まれた コロナ禍ではオンラインで雑誌を一緒に見たり、嵐の話題で盛り上がりながら交流を継続。 学生が提案した「嵐のうちわ作り」に、Bさんの選択や表情が随所に現れた 完成したうちわは Bさんの思いが反映された色彩豊かな作品となり、重度の方でも “選ぶ・表す・創る”という意思表出が可能になった。 安心して選べる環境があることが意思表出の基盤となった LEAFのメンバーとBさんが交流している写真 LEAFのメンバーとBさんが作成した嵐のうちわの写真 9ページ目 3.交流を通した利用者の変化(3)Cさん(男性)まるいち オンライン交流時の会話をきっかけに、「映画を観に行こう」とCさんが提案 事前にお互い漫画全巻読破の約束 Cさんは映画館での鑑賞は初挑戦 当日は中華料理屋でランチ、映画鑑賞を通して、楽しいひと時を過ごすことができた 当日まで本人と学生とで何をするか、どこに行くか話し合い、共有できた「ワクワク感」はとても意義のあるものになった LEAFのメンバーとCさんが交流している写真 10ページ目 3.交流を通した利用者の変化(3)Cさん(男性)まるに サッカーという共通の趣味から交流がスタート。 園舎には当時サッカーゴールが無く、Cさんは「サッカーゴールがほしい」という希望を学生に伝えた。Cさんは学生と何が良いかを一緒に選ぶ。 その後、Cさんは利用者自治会で自ら意見を述べ、“ゴールを購入したい”という提案が採択され、実際に購入が実現。 友人との関係性が、Cさんの思いを引き出し、それが自治会という場を通じて活動の幅の拡大(社会変革)へつながった Cさんからの手紙では寮の友人たちとゴールを使ってサッカーを楽しんでいることが伝えられた(Cさんがサッカーを楽しんでいる様子の写真) 11ページ目 4.活動から見えた課題? お友達関係を継続・促進するための環境整備 友人関係が自然に続きやすい環境をつくるために ・安全管理や集団生活の特性から、本人から表れた希望がすぐには実現しにくい場面も生じうる ・そのため、学生が職員に遠慮して、「お友達としての対等な関わり」が発揮しづらくなる傾向も一部で確認された つながりを継続しやすくするICT環境の工夫 ・コロナ禍でオンラインツールが一定の効果を果たした一方で、Wi-Fi環境や端末等の不足により継続が難しい場面があった ・また、当事者がICTツールに慣れるまでには一定のステップが必要であり、安心して活用できるようにするための段階的な支援も重要である 日常的・対等な関係性を支えるためには、技術面(ICT)と価値面(理解・調整)双方の継続的な環境づくりが必要 12ページ目 4.活動から見えた課題 友人関係の中で表出された希望を支援につなげる仕組み(構造)の整備 友人関係は、本人が安心して思いや希望を語れる対等な関係性であり、意思形成の重要な土台となる。津久井やまゆり園 お友達プロジェクトでも、本人の希望により、意思決定支援会議に友人が参加した例が確認された こうした友人が意思形成・意思決定の場に継続的に参加しやすい仕組みづくりが今後求められる神奈川県の 「本人中心・チーム全員参加の意思決定支援」を推進するうえでも、友人が継続的に位置づけられる制度整備が必要となる 友人関係の中で表れた意思が、支援上の判断や運営上の調整の中で十分に活かされにくくなる場面 もある。水島(2023)は、 特定の関係性や制度・慣行の中で、本人の意思・選好が見えにくくならないようにする仕組み(セーフガード)の重要性を指摘している 人的基盤(安心して語れる対等な関係性)⇒意思形成⇒意思表出⇒支援の調整・判断⇒意思実現の図 13ページ目 障害者権利条約 第12条第4項の整理 ― 本人の意思・選好が不当に影響されないためのセーフガード ― □第12条第4項が求めること 法的能力の行使に関わるすべての場面で本人の意思・選好が不当に影響されないよう、適切かつ効果的なセーフガードを整えること □国連・一般意見1号のポイント:“will and preferences(意思・選好)”の実質的尊重 意思が「表出されること」のみならず、支援のさまざまな場面で継続的に活かされることが国際的にも求められている □ 意思形成の基盤と連続性 日常の小さな意思決定の積み重ねが、法的能力の行使につながる 友人との対等な関係は、意思形成を豊かにする基盤 本人が望む関係性が、支援や意思形成の場面で継続的に反映される環境整備が必要→12条4項の趣旨に合致 □実践への示唆 意思決定が支援の調整・判断で埋もれやすい構造への配慮 (支援者や家族を含む「特定の関係性」に依存しすぎないようにすること) 継続的に関係性をサポートする仕組みが必要(例:コーディネーター、第三者的立場のサポート) 14ページ目 海外事例の示唆 米国オレゴン州:知的障がいのある人の地域生活を支える支援モデル Support Services Brokerage(ブローカレッジ) ・州全域で機能する民間の地域生活支援拠点(ケースマネジメント機関) ・理事会に当事者が参画し、自己決定を基盤として運営される Personal Support Worker(パーソナルサポートワーカー:PSW) ・友人・知人など、本人の信頼する人が支援者になれる ・日常生活に寄り添う継続的な関係性 ・柔軟な地域生活支援(ADL / IADL / 移動・外出) Personal Agent(パーソナルエージェント:PA) ・本人の意思・選好を基盤にパーソンセンタード計画(PCP) を作成 ・サービス利用の調整、資源につなぐコーディネーションを行う (参考文献:志村・Oshwald2021) → 本人が選んだ身近な支援者が生活の支援を担うことで、日々の中で思いや希望を自然に表しやすい環境が生まれ、 意思形成・意思決定の連続性を支える基盤として制度的に位置づけられている 15ページ目 5.まとめと展望 お友達プロジェクトの理念を、地域へひろげていく ー安心して意思を表出できる「関係性」が、本人の未来を拓く土台になる 多様な主体がつながり、誰もが豊かな関係性の中で暮らせる“地域の仕組み”を育てていく ー大学・地域住民・施設が協力し、その関係を支える環境づくりを進める。その基盤を支えるコーディネーターや 社会福祉協議会等の役割にも期待が寄せられる LEAFのメンバーと利用者が交流している写真 16ページ目 謝辞 お友達プロジェクトの活動にご理解・ご協力を賜りました 利用者の皆さま、ご家族の皆さま、津久井やまゆり園・芹が谷やまゆり園の職員の皆さま、 湘南ふくしネットワークオンブズマンの皆さま、そして神奈川県関係者の皆さまに、心より感謝申し上げます 17ページ目 参考文献 神奈川県共生社会推進本部室(2023)「施設入所者個別交流促進事業マニュアル 〜お友達プロジェクトについて〜」2023年3月31日発刊 https://www.pref.kanagawa.jp/documents/61974/otomodatijigyo.pdf(最終閲覧日2025.12.01) 水島俊彦(2023)「国連勧告から見る日本の障害者の意思決定における課題―支援付き意思決定の確保と濫用防止の仕組みを備えた 『権利擁護支援モデル(フォロワーシステム)』とは?―」『人間福祉研究』第16 巻第1 号, 79-96. 志村健一・Mary Oschwald(2021)「オレゴン州における知的障がいのある人たちへの地域生活システム」『ソーシャルワーク研究』,Vol.47(3), 73-80.