県立障害者支援施設における利用者支援等の改善について 1 中井やまゆり園及び愛名やまゆり園における利用者支援等の改善 (1) 中井やまゆり園 ア アクションプランの推進 令和5年7月末に策定し、令和6年7月に改定した「県立中井やまゆり園当事者目線の支援アクションプラン〜一人ひとりの人生を支援する〜」(以下「アクションプラン」という。)に基づき、アクションプランに掲げる4つの柱ごとに取組を進めている。 (ア) 人生に共感し、チームで支援する これまでどのような人生を歩んできたのか、生育歴から利用者の人生を理解し共感するため、その充実に向けて取組を進めている。 a 支援改善アドバイザーとのカンファレンスを通じた生育歴の理解と人となりシートの作成 ・ 利用者82名中41名のカンファレンスを実施(令和6年度実績、令和7年3月末時点) (イ) 暮らしをつくる 施設の中だけで完結していた暮らしから、当たり前に地域で活動する暮らしに向け、次の取組を進めている。 a 秦野駅前拠点「らっかせい」での活動の充実 ・ 花壇整備や公園清掃に加え、商店街でのリサイクル活動等の開始 ・ 利用者実人数53名、延べ1,161名が参加(令和6年度実績、令和7年3月末時点) b 近隣農家や他事業所との連携による、農作業を通じた地域連携の取組 ・ 農業に精通した社会福祉法人の指導のもと、夏野菜の苗植えから収穫に利用者が参加 ・ 利用者と地域の小学生等が一緒に麦畑で農作業を実施 c 園外の事業所への通所 ・ 体験利用を含め、通所事業所へ25名、グループホームへ2名が利用(令和6年度実績、令和5年8月〜令和7年3月の間にグループホームへ移行した利用者は除く。) d モデル寮の設置(令和7年4月) ・ 特定の寮を園長直轄のモデル寮と位置づけ、日常的にモデル寮の全ての利用者が園外で活動し、地域とつながる実践 ・ 令和7年6月から、全ての利用者が地域の中で日常的に農作業や清掃活動等の活動を開始 (ウ) いのちを守る施設運営 ・ 昨年度、障害福祉分野で活躍していた医師を医務統括として、医療安全問題に関して実績豊富な看護師を医務統括補佐として配置し、園の医療体制の拡充を図った。 ・ 一人ひとりの利用者の状態を改めて把握し、支援を見直す等、利用者一人ひとりのいのちを守る取組を進めた結果、健康診断の血液検査が2年前と比べて、全体として改善傾向にある。 ・ 「6 県立中井やまゆり園における医療・健康管理問題改革 委員会について」で別途報告 (エ) 施設運営を支える仕組みの改善 a 利用者満足度調査の実施に向けた調査方法の検討 b ICF(国際生活機能分類)の評価シートの作成 イ 不適切な支援の発生 (ア) 概要 ・ 令和7年2月12日午前中、利用者(30代男性)が隣の寮のトイレに向かおうとしていたところ、職員(50代男性)が、利用者に対し、不適切な発言を行った上、別の職員(50代男性)とともに利用者を引きずって動かした事案が発生した。園は2月14日に支給決定自治体に、障害者虐待防止法に基づく通報を行った。併せて、利用者本人及び家族に対して謝罪を行った。 ・ 3月27日、支給決定自治体より、次の行為が虐待と認定された。 @ 利用者に対し、「マーキングなんてやめてよ」と発言した。(心理的虐待) A 隣の寮へ入ってきた利用者を、寮の外へ引きずり出した。(身体的虐待) B 引きずり出した利用者のズボンと下着がずり落ち、下半身が露出した状態のままその場を立ち去り放置した。利用者は、その場で2分程度放置され、その間、複数の職員が通り過ぎるが、立ち止まり声をかけ、衣類を整える等の支援を行う職員はいなかった。(心理的虐待、ネグレクト) (イ) 虐待が発生した原因等の振り返り ・ 他利用者とのトラブルの可能性を考え、未然に防がなければという思いから、寮の外へ引きずり出すという行動に至ったが、利用者が床に横になっている光景を日常的なものとして、利用者に対して「無関心」で、積極的に「関わらない」職員の姿勢に問題があった。 ・ 日頃から職員で意見を言い合える環境ができておらず、職場環境の改善、マネジメントができていなかった。 ・ 事案発生後、上席が不在であるという理由から、園長までの報告が数日遅れ、虐待通報及び利用者の安全確保が遅れていた。 (ウ) 再発防止に向けた取組 ・ 地域とのつながりを深め、利用者と職員以外の関係者とともに、日中活動の充実を図る。また、活動を通して、一人ひとりの人生や想いに共感することで、利用者との関係性を見つめ直す。 ・ 虐待防止に対する知識及び意識の向上に加え、今回の件を受けて実施したロールプレイ等の実践的な研修を行い、利用者の気持ちを考え、全ての職員が自分事として考える機会をつくる。 ・ 園内の報告体制や利用者の安全確保等、虐待が疑われる事案発生時の対応について検討し、虐待防止マニュアルの見直しを行う。 ウ アクションプランの見直し アクションプランに基づく取組状況について、利用者家族や職員等への説明を行うとともに、令和7年3月に開催した第2回「県立中井やまゆり園改革アドバイザリー会議」(以下「アドバイザリー会議」という。)で意見をいただいた。 引き続き、様々な関係者の意見を伺いながら、アクションプランの見直しを行う。 (ア) 関係者の主な意見 ・ 生育歴は、職員と家族で共通の認識を持てるよう、家族にも共有し、一緒に作ってもらいたい。 ・ 生育歴を作成することで、これまでの生育環境等の利用者の歴史に触れ、身近な存在になった。一方で、作成する負担は大きく、その情報を寮内で議論する時間が十分にない。 ・ オール中井デー等の取組は、その意義や目的等を職員間で共通認識を持つ必要がある。また、利用者にも理解してもらえるような関わりが大切である。 ・ 園に配属後、支援現場に入る前に、介護技術等の実技研修があれば、自信をもって利用者と向き合うことができる。 ・ 園の目指す方向性を共有する研修を行う必要がある。 (イ) アドバイザリー会議からの主な意見(3月) ・ 日中活動の充実として、「らっかせい」を始めとして、日中活動や地域とのつながりは進んできている。 ・ しかし、医療や健康問題については課題が多く、医療面だけに着目するのではなく、施設としての医療を考える必要がある。 ・ 利用者の日々の状態変化や異変を医療に繋げていくことが福祉側の役割であり、利用者の健康状態は、日々の活動と結びつけて考えていく必要がある。 ・ 進捗が低調な背景に、カンファレンスの内容が適切に園内で共有されていない等、園内の情報共有の課題があり、情報共有できる仕組みがなければ、園の底上げにつながらない。 ・ 取組を行ったかどうかだけでなく、取組を通じて活動や表情が増えたという評価が必要である。 (ウ) アクションプランの見直し内容(案) アクションプランに掲げる4つの柱は継承し、次のとおり見直しを行う(主な見直し箇所は別紙参照)。 a 令和6年10月に設置した医療・健康管理問題改革委員会中間報告への対応や令和7年4月に設置したモデル寮の実践等を踏まえ、令和7年度の重点事項を新たに定める。 b 昨年度の職員アンケートから見えた組織体制やハラスメントの課題等、新たな課題への対応策を盛り込む。 c モデル寮や、第2らっかせい(仮称)の設置等、新たな取組を盛り込む。 エ 今後について ・ 引き続き、利用者家族や職員等から意見を伺いながら、7月を目途にアクションプランの改定を行う。 ・ 令和7年度の重点事項を中心に進捗状況や課題を把握できるよう、園とともに作成しているTODOリストを更新し、園と本庁が一体となって具体的な取組を進めていく。 ・ 令和7年度は計画期間の最終年度であることから、引き続きアドバイザリー会議を開催し、第三者による進捗確認を行うとともに、計画期間である3年間の成果を見える化する。 (2)愛名やまゆり園 ア 「愛名やまゆり園虐待事案に関する第三者委員会中間報告書」を受けての対応について 社会福祉法人かながわ共同会(以下「共同会」という。)が設置した第三者委員会が令和6年10月に公表した、「愛名やまゆり園虐待事案に関する第三者委員会中間報告書」(以下「中間報告書」という。)を受けての対応等を進めている。 (ア) 共同会の対応状況 a 経過 共同会は、中間報告書を踏まえ、令和7年1月、「かながわ共同会法人改革・愛名改善等実行プラン」(以下「改革実行プラン」という。)を策定し、@組織を変える、A意識を変える、B暮らしを変える、の3つの目標のもとに、抜本的な法人改革及び園の改善等に取り組んでいる。 b 改革実行プランの主な取組状況 @組織を変える ・支援改善チームの設置、運営 ・外部コンサルタントによる人事制度等の改革 ・園内会議の効率化 ・理事長と現場職員との意見交換 A意識を変える ・職員研修体系の見直し ・アンガーマネジメント研修の実施 ・障害当事者を講師とした職員研修 ・支援評価委員会の新設 B暮らしを変える ・相部屋解消のための他寮等への移行 ・利用者全員カンファレンス ・園外活動の場の充実 ・グループホームの新設 c 改革実行プランの進捗管理 改革実行プランの進捗管理のため、新たに外部有識者等で構成される「法人改革アドバイザリー会議」を設置し、6月26日に第1回を開催した。 (主な意見) ・多床室の解消と日中活動の充実を優先し、トップがアクションを起こし、職員に改革の方向性を具体的に示すことで、現場の動きやすさが向上する。 ・改革の理念として地域共生社会を目指すのであれば、利用者が社会に出て役割を果たすことを職員が理解できる環境が必要。これに気づいた法人が変革を遂げる。 ケアワークだけでなく、ソーシャルワークも重要である。 (イ) 県の対応状況 a 中間報告書で指摘された虐待が疑われる事案への対応   県は、「障害者総合支援法」の規定に基づき、次の行為について人格尊重義務違反と判断し、令和7年5月、指定障害者支援施設の指定の一部の効力の停止(新規入所者の受け入れ停止3か月:令和7年6月1日〜令和7年8月31日)を行い、通知した。 ・利用者の缶コーヒーを職員間で交互に回すことにより利用者に渡さず、利用者を混乱させた。 ・利用者に職員の悪口等を言わせた。 ・お菓子について、利用者ごとに皿に分けることなく、ボールから手渡しするといった、利用者の人格への配慮を欠くような対応をしていた。  ・利用者が食事を終えるまで席を立たせず、咀嚼の回数を強要していた。 ・利用者の服の襟を掴むように持って誘導した。 ・転倒防止を理由に、利用者の意思にかかわらず、利用者を椅子に拘束し、立ち上がれないようにしていた。 ・散髪時に、利用者の意思を確認することなく、動きの激しい利用者の体を押さえていた。 b 中間報告書で県が検証すべきとされた事項等への対応 県は、中間報告書を踏まえ、これまでの県の対応を検証し「中間報告書による県への指摘に係る検証結果報告書」(以下「県報告書」という。)を取りまとめ、生活環境面における課題、生活支援面おける課題、県による運営指導上の課題及び地域生活支援の課題の4点に整理し、改善に向け取り組んでいる。 c 県報告書の主な取組状況 令和7年4月から、県福祉職を愛名やまゆり園、厚木精華園へ2名ずつ派遣し、園の支援改善チームとともに、意思決定支援の推進や施設利用者の生活支援、日中活動の支援を行っている。 また、県から幹部職員等を派遣し、施設内ラウンドを行うほか、日中活動の活性化のため、園の職員とともに、園外の日中活動の充実に向け取り組んでいる。 (ウ)今後の対応 引き続き、中間報告書及び県報告書を踏まえ、県と法人、園が一体となって、愛名やまゆり園の改善に向けた取組を継続していく。 2 県立中井やまゆり園における医療・健康管理問題改革委員会について (1) 設置の経緯と取組内容 県立中井やまゆり園(以下「園」という。)の支援改善アドバイザーから「長期に渡る入所施設での支援の中で、機能低下や低栄養その他いのちに関わる深刻な問題が放置されている」との厳しい指摘を受け、園における健康リスクが高い当事者への対応の検討及び福祉施設で実施すべき健康管理のルールづくりを行うために設置された。 (2) 改革委員会の開催状況 (第1回)令和6年12月18日 議題 ○ 園での健康課題の検討 〇 事例に基づく検討 (第2回)令和7年1月28日 議題 〇 施設で起こるエラー(不適切支援)の定義・改善に向けた対応 〇 個別事例に基づく検討 〇 指摘を受けての園の改善事項 〇 中間報告に向けて 等 (第3回)令和7年3月27日 議題  ○ 本委員会の役割について(再整理) ○ 委員からの指摘事項等 ○ 施設で起こるエラーのPDCAによる改善 ○ 中間報告(案) ○ 健康管理のガイドライン(案) (3) 中間報告の概要 改革委員会での議論や現地調査の結果を踏まえ、現時点における検討状況を中間報告として取りまとめた。 中間報告では、課題認識、課題解決に向けた具体的対応や健康管理のガイドライン(案)を記載している。 ア 課題認識 ・ 当事者一人ひとりの健康リスクが見逃され、必要な医療につなげることができていなかった複数の事例が報告されている。 ・ 健康管理や医療と福祉施設の連携の重要性についての理解が不足している。 ・ 園全体のマネジメントが機能していない。 ・ 県本庁は、園の実情を十分把握できず、改善に向けた指導や支援を十分行うことができていない。 イ 課題解決に向けた具体的対応 <現場職員への提言> ・ 当事者の全体像を知り、リスクの最小化に努める。 ・ 変化に気付き、医療につなぐ。 ・ 当事者の将来の可能性を尊重する。 <施設運営者への提言> ・ 徹底的に当事者の暮らしに寄り添う。 ・ 園は「当事者の生活空間」であり入院施設ではない。 ・ できるところから着手する。 ウ 福祉支援をベースにした健康管理の課題 病気の発症前から生じているささいな体調変化等に、現場職員が気付かない/気付けない/気にしないことが課題である。 (ア) 原因(Why) 現場職員のやるべきことや責任の範囲が曖昧であり、また、エラーに気づいても報告しない、報告しづらい文化があるなど、マネジメントが機能していないことが主たる原因と考えられる。 (イ) 対応(How) マネジメントの改善に当たっては、現在の園の業務システムを一から見直す必要があるが、まずは次の取組を進める必要がある。 ・ 適切な改善サイクルを機能させること。 ・ 健康管理のガイドラインを作成すること。 エ 施設で起こるエラーのPDCAによる改善 次の仕組みにより、エラーを分類し、必要な改善のサイクルを機能させる必要がある。 なお、園では、改革委員会の議論を経て、試行的にエラー等の報告システム(エラー&グッドプラクティスレポーティングシステム)を運用し始めている。 今後、必要に応じて、エラーの定義や報告基準の見直し等を行っていく。 オ 健康管理のガイドライン(案) 当事者一人ひとりの「いのち」を守るための健康管理の指針や判断基準となる「ガイドライン」を定める。 ガイドラインでは、個別項目ごとに、次の視点から健康管理の指針や判断基準を示す。 ・ 現場職員が持つべき心構えや考え方、前提となる知識 ・ 医療と福祉のコミュニケーション・連携のあり方やルール ・ 人材育成・人員配置のあり方 カ 今後の課題 ・ 医療機関とのコミュニケーション ・ 全生育歴をベースとした徹底的な振り返り ・ 他施設への展開 等 (4) 今後の対応 ・ 中間報告に示された今後の課題に係る検討 ・ 改革委員会に報告された事例に係る福祉的な視点での検証 ・ 最終報告のとりまとめ 以上