更新日:2026年7月22日

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国内外の情勢に関するコメント(森林管理・シカ管理ワークショップ報告書)

国内外の情勢に関するコメント(森林管理・シカ管理ワークショップ報告書)

谷川潔 国際連合大学高等研究所研究員

 

 参加型による統合的保護管理手法の先進的事例として、英国のレイクディストリクトパートナーシップを紹介する。レイクディストリクト国立公園は、北部の湖水地方の国立公園で、ピータラビットの舞台として知られ、観光客数は世界的にトップレベルである。民有地が多く、農業も営まれている中で、国立公園として景観や自然環境を保全している。別荘地や牧草地とその背後の湖や山など、英国人が美しいと感じる特徴的な湖水と牧草地景観が広がっている。

 日本と同様の地域性の国立公園であり、区域内で事業を実施する機関や団体が非常に多い。面積は概ね丹沢、箱根、富士地域を合わせた面積に相当する約22万ヘクタールで、私有地が6割程度と高い比率を占めており、ナショナルトラストが積極的に進められている。国内の国立公園等に比べても、私有地の面積が大きい。

 2006年からレイクディストリクト・ナショナルパーク・ビジョンを開始し、世界的に見て進んだ参加型・統合的管理手法を取り入れている。期間は2030年まで、対象地域は、比較すると丹沢再生よりもより多く裾野部分を多く含んでいる。1)繁栄する経済、2)世界レベルのビジター体験、3)いきいきとしたコミュニティ、4)壮観な景観という 4つの目標を掲げ、これに向けた24のアクションプランをパートナーシップ団体が連携して進めている。

 LDNPA(Lake District National Park Authority)が国立公園管理事務所の役目を担っているが、限られた人材と予算では求められている国立公園としての管理が十分でないとの認識がある。また、それぞれの事業は団体ごとに、計画ごとに個々に動いている。このため関係団体や機関による参加型の統合的管理が必要で、特に相互理解と信頼が重要であることが基本認識となっている。

 推進体制は、丹沢とよく似た組織形態となっている。全体の管理機構であるLake District National Park Partnershipの下で、24のDelivery groupが置かれ、実施計画ごとに責任者、予算、人員、時限が明確にされている。これらの実施計画をState of the Park Partnership Groupが評価し、これをもとに、Management and Development Plannig Advisory Groupが公園計画の見直しを議論する仕組みになっている。部会ごとに進めながら、全体としてパートナーシップ委員会が開催され、年1回フォーラムを開いたり、ウエブ上での検討進行状況の提供などの情報公開を行う。このように実施計画、モニタリング、保護管理計画の見直し立案という3つの機能を、全体委員会としてのパートナーシップ委員会が全体運営していることが特徴となっている。

 日本に当てはめてみると次のような運営形態となる。丹沢大山自然再生委員会にあたる組織が全体を管理し、個別の事業実施部会が進行管理を行って総合調査部会に報告する。総合調査部会は事業の評価を行って保護管理部会に報告する。保護管理部会で結果を統合的に検討し、再生委員会で計画を見直す。往々にして、このようなサイクルがないと計画は停滞してしまうし、参加型という面では、年に1回の公開シンポジウムやe-Tanzawaのような形で情報提供を行うことも重要。

 こうした継続的な議論を進める際に、合意形成のプロセスが重要である。参考までに、イギリスの国立公園における合意形成手法であるコンセンサス・ビルディング・プリンシパルを紹介する。

 

 1) 関係がある人をみんな集めて公開の場で議論する。

 2) 全て合意できなくても、たいていの場合存在する合意点を探して進めていく。

 3) 投票による合意形成は避け、合意に拘って、合意点に基づいて会議運営を行う。

 4) とことん議論し、議論で得られた最終的な結果は拒否しない。

 

 統合的管理は、イギリスでも始まったばかりで、様々なことがオンゴーイングで進んでいる。新しい計画というものは、これまでにできなかったことにチャレンジする訳だから、ちょっと油断するとモーメンタムを失い止まってしまうことが多い。全体的なロードマップ、合意形成のシステムの参加者間での了解を得つつ、実施・モニタリング・計画の見直しのサイクルを、ある程度システム化して、やれる部分からでもサイクルを回していくことが必要ではないかと思う。

 

質疑

 質問: 実行する上で、これがなければ動かないという取組の鍵は何か。

 回答: 実施計画ごとに責任主体と実施計画担当者が明確になっており、例えば四半期ごとに進行状況が評価される。こうしたことにより計画実施が止まらない仕組みになっている。全てのアクションプランは記名で公表される。また、このビジョンをパートナーシップのもとに運営していくことが、現在この国立公園の存在理由の生命線になっている。国内と比べると、行政手法が異なる面もあると思うが、責任の所在がはっきりしていることがポイントである。

 

富村周平 丹沢大山自然再生委員会委員

昨年10月にドイツ、フランスに行った際、シカ管理についてのヒアリングを行った。ドイツとフランスに注目したのは、ライン川は、約5000年前に山が陥没して出来て、川の両隣はドイツとフランスになっている。同じような地形、地質、気候条件を持ちながら、フランスとドイツでは、山の様子は全く違う。そこで定期的に訪ねて、その違いと経過をモニタリングすることを始めた。その一環で行ってきた。

ドイツは、林相は主にトウヒの一斉林となっており、日本は、これに習ってスギ、ヒノキの一斉人工林を造成した。この一斉林は、生物多様性や風景の面で問題となっており、20年ほど前から、トウヒ林の中にブナやミズナラなどの広葉樹を天然更新で育てて、混交林に誘導していく取組が行われている。

一方、フランスでは、平地や丘陵林が多いが、もともと広葉樹を中心に在来種を育成して林業を行っている。これは18世紀の初めにベルナール・ビュホンが、敷地の1万haの森を使って、製鉄用の薪炭を持続的に供給したのが林業の始まりとなっている。

このようなドイツとフランスの違いを調べる目的で調査している。今回はシュバルトバルトを訪れたが、谷川先生のお話しと同じようなシステムで自然と地域産業を守っている。南シュバルトバルト自然公園協会というNPOが管理主体となり、国、市、住民、企業などが参加メンバーとなってその地域の自然と産業を支えている。現在では既にトウヒに広葉樹が混生する混交林になって、農地、牧草地、森林がきれいな風景を成している。

20年ほど前には、ドイツでもかなりのシカ被害を受けた。もともと野生動物を食べる習慣があり狩猟への抵抗感はないが、一斉人工林であったため、日本と同じようにシカの被害問題が起きた。しかし、今回の視察で被害はほとんど見られなかった。これは、国を挙げて狩猟免許の取得を後押しし、狩猟する人材を養成して、狩猟圧を高めてきたことによる。徹底した地産地消を進めており、その土地でとれた農産物や野生動物をレストランに供給し、観光客を呼び込みながら、地域産業を振興するというスキームでかなり成功をおさめている。

フランスでは、地域の猟友会のような団体に狩猟権を販売し、会員個人が割り当てられた頭数に対してお金を払う仕組みになっている。捕獲したものは売れるという形でシカを管理している。捕獲したシカに一定の割合でバンディングして放し、翌年の再捕獲の比率によって地域の個体数を推定するということを続けている。これをもとに毎年の個体調整をしている。ドイツと同様、シカによる被害はほとんど見られなかった。一部の植林地にシカ柵を少し作っている程度である。

ドイツ、フランスのいずれにおいても、5年ごとに、概ね5キロメートルメッシュで森林資源や野生動物の状況、その他環境に関してモニタリングを行い、管理が適切であったかどうかを検証している。

以前聞いたところでは、アイルランドでもシカを獲って売ることができるが、密猟防止が大変な状況とのことである。日本の場合、エゾシカは体が大きく食用になるが、ニホンジカは、食べる部位が少ないので歩留まりが悪く、食肉利用はコストの面で問題があると思われる。何よりも、野生動物を食べる習慣が根付いているかどうかに大きな差がある。向こうでは、ジビエという野生動物の美味しい料理を、ちょっとしたレストランでどこでも食べることができ、流通の仕組みも出来あがっていることから、シカを捕獲する人材も維持されており、日本とは大きく違っている。

 

質疑

 質問: ドイツでは、シカ密度は、どれぐらいで維持されているか。

 回答: 正確な数字はまとめていないが、以前より密度はかなり低くなっていると思われる。

 

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